まほろばで君と

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第1話「再会」

この話は昨年6月に書いた初めての小説的なものです。大げさに言うと処女作ということになります。あまりにもお粗末で、私自身、読むに堪えないですが、記録として残します。

 

 

[1992年5月の話 主人公は23歳]

 

 1992年春、高校の同級生3人が集まった。

 

 浩は今年、同志社大学を卒業してリクルートに、博人は関西大学を卒業して地元の商工会議所にそれぞれ就職し、新社会人となった。バブル時代を大いに楽しんだ末の就職だった。 大学は違うが2人とも法学部・政治学科で、学生時代はカリキュラムや講義内容についてよく話していた。

 そして、善晶は高校卒業後、就職しないまま派遣のバイトをしている。高校時代はムードメーカーで、部活では補欠であるにもかかわらず目立っていた。女子受けも悪くなく、好かれる存在だった。しかし、今は見る影もなく、人を避けるようにひっそりと生きている。

 

 3人は高校卒業後も連絡を取り合う、一緒に受験勉強をしていた仲間で、多感な時を共に過ごしたいわば「戦友」だった。高校時代も善晶と浩はバレー部、博人はハンドボール部と、同じ体育会系だったので、何かと関わりがある。

 浩と博人は、はつらつとした顔をしている。希望した場所に所属して、自らの「これから」を期待しているといった感じだ。善晶は自分との温度差に寂しくなったが、気の置けない仲間といる安心感で自然と笑顔になった。

 集まったものの、平日であまり時間もなかったので、びっくりドンキーでハンバーグを食べながら近況報告し、今度みんなで遊びに行こうと言って解散した。

 

 そんなある日、博人は同じ高校の優子と駅でばったり会った。

 お互いに顔と名前を知っている程度で、あまり話したことはなかったが、博人は高校時代、善晶と優子が同じクラスでよく話していると人づてに聞いたのを思い出し、善晶の名前を出してドライブに誘った。

 

「せとぴーと何人かでドライブに行こうって話が出てるんやけど、良かったら行かへん?」

 

「うん、いいよ」

 

 突然の誘いに困惑するかと思いきや、優子がすんなり誘いに乗ったので、博人は少々拍子抜けしたが、OKがもらえて喜んだ。実はこの時、優子は大きな病院の医療事務を辞めていた。後になって分かったが、満たされない毎日で、人恋しくなっていた。

 

 善晶と浩は、浩が大学生の時に、1~2か月に1度会っていた。浩は、善晶を誘っては自分の用事に付き合わせ、それを口実に食事をごちそうする。この数年間、元気をなくしている善晶の様子が気になり、案じていた。大学で知り合った女性を何人か紹介しようとしたが、善晶は頑なに断った。

 

「女の子とカラオケでもして楽しんだら前向きになれると思った訳や」

 

「うん、そやなぁ……。でも、俺じゃ釣り合わんわ……。住む世界が違う」

 

「せとぴーやったら、その気になったら彼女できるのに……。もったいない」

 

 善晶は自分に引け目を感じて、女性に近づかないようにしていた。そして、そんな自分がみじめだった。

 

 

 

 心地いい風が吹く5月の土曜日、博人が計画したドライブの日がやってきた。

 善晶、博人、浩、そして優子と地元の友達の男女5人が、2台の車に分かれて走る。優子とその友達は優子のカローラに乗り、男3人は浩のシビックに乗る。行きは男女に分かれた。味気ないが仕方ない。それに、彼女がいる浩は付き合いで来たという感じで、博人とは違い少し冷め気味だった。

 

「しゃべるの6年ぶりやなぁ。ちょっと緊張するわ」

 

 善晶は明るく振舞いながらも、不安そうな顔を覗かせる。女性2人とは出発前、車内から少し顔を合わせただけで、まだ再会したとは言えなかった。

 

 1時間のドライブの後、目的地の須磨水族園に到着した。ラッコがお目当て。駐車場に車を止め、全員降りて、“正式に”再会となった。

 

 ひょんなことから再会した善晶と優子。お互い懐かしそうに少し照れながら笑みを浮かべる。

 善晶は、化粧して大人びた優子を初めて見た。

 頑なな心が、ほんの少しほどけた瞬間だった……。

 

<つづく>

 

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神戸市立須磨海浜水族園

 

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