学校で教師が行う教育相談とカウンセリングの違いについて、2008年5月に書いたレポートの一部を省略したものを掲載します。学校に通うお子さんのいる方や、子供に助言する立場の方の参考になればと思います。
テキストはミネルヴァ書房の『学校教育相談』です。
【教育相談 課題１】
学校教育相談は、生徒一人ひとりが生きがいをもって日々の生活を送り、将来を担う一人の人としての人格形成を促そうとする教育実践である。
生徒を取り巻く環境の急激な変化や価値観の多様化により、目標や生きがいをもって、積極的、意欲的な毎日の生活を送ることが困難になっている生徒が増加している。
具体的には、不登校・いじめ・自殺・学級崩壊・高校の中途退学などが挙げられる。
大部分の生徒は、このような問題行動がなく、心理的にほぼ健康であるが、急激な発達段階の途上にあるため、日々の生活の中で、一時的な悩みや課題や問題をもつことがある。
したがって、学校教育相談は、不適応に陥っていたり、問題行動を示したりする生徒だけでなく、心理的に健康な生徒を含めた学級の全ての生徒を対象とし、生徒のパーソナリティの成長をめざした教育実践として発展してきており、その意義は重要なものとなってきている。
学校教育相談には次の４つの課題がある。
１）種々の不適応に陥っていたり、問題行動を示したりする生徒への指導や援助的取り組み、
２）一時的な悩みや苦しみ、不適応行動を示しているが、心理的にはほぼ健康な生徒への指導や援助的取り組み、
３）新しい課題としての、不適応や問題行動への予防的、開発的取り組み、
４）一人ひとりの生徒を尊重し、パーソナリティの健康な発達を促すような学校の雰囲気や組織作りである。
これら４つの課題に共通するのは、生徒一人ひとりを尊重し、やがて社会人として自己実現が図れるように一人の人として成長できるように援助することである。
教育とカウンセリングには、生徒、またはクライエントが人として、心理的により健康に成長できるように援助、指導するという共通の目標がある一方で、両者には根本的な違いがある。
役割として、教育では、教師は生徒の成績を評価し、校則違反、逸脱行動、不適切な言動を指導し、必要に応じて処罰することが求められるのに対して、カウンセリングでは、自由で中立な立場からクライエントを共感的に理解し、受容することに専念し、パーソナリティの成長を援助するが、評価や処罰をすることはない。
関係の特徴として、教育では、教師と生徒はそれぞれ相手を選ぶ自由がなく、一定期間に限定されており、教師一人と複数の生徒との関係であるのに対して、カウンセリングでは、カウンセラーとクライエントとの相互の自由意志に基づく、一対一の関係である。
実践される場の特徴として、教育では、学級・校内・校外・家庭など開かれた場で実践されるのに対して、カウンセリングでは、時間も含めて、あらかじめ両者の合意によって決められた、枠がしっかりした面接室などの閉じられた場で実践される。
対象の特徴として、教育では、大多数が心理的にほぼ健康な生徒だが、カウンセリングでは、種々の問題行動や不適応に陥っているクライエントである。
このように、教育とカウンセリングとでは根本的な違いがあり、教師とカウンセラーの役割を同時に果たすことは「二重関係」といわれ、遂行することは非常に困難である。教師はカウンセラーではない。
学校教育相談は、教師が学校で生徒や保護者に対して行う独自の新たな教育実践として創造されなければならないものである。
しかしながら、カウンセリングの基礎（傾聴・繰り返し・感情の反射・内容の明確化・閉ざされた質問と開かれた質問・内容の要約）や、生徒を理解する上で必要とされる相談的な見方、感じ方、考え方、態度であるカウンセリングマインドの理解は、学校教育相談実践者には不可欠といえよう。
最後に、「開発的カウンセリング」※が近年、教育相談の場で注目されている。これは、生徒の心の発達を側面援助するものであり、今後、教育現場で発展することを望みたい。
レポート原文1593字
※開発的カウンセリングとは、児童生徒の心理的な発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育て、困難な問題に対処する力やストレス耐性を高める活動のことである。活動の視点として、「人権教育」「ライフスキル教育」「キャリア教育」などがある。これらは、生涯にわたる発達課題達成の支援であり、全ての児童生徒が対象となる。教科学習や特別活動、総合的な学習などの学級、学校全体の教育活動を通して実施する。
（文部科学省ホームページより）
