まほろばで君と

私小説『昨日のような遠い記憶・唯一のコンパ編』第1話「事故の夜」

小説っぽいものを書いた2作目です。昨年の夏に書いて、細かい修正を繰り返しています。全5話で実話の部分が多く、そこの会話は実際にしたそのままです。

これを書いたのは、自分を俯瞰で見て心の整理をするのと、後年ハッキリ気づいた気持ちを吐き出したいという理由からです。

その頃の自分に「躊躇するな!」と言いたい。

 

 

[1994年の話 主人公は25歳]

 

 1994年の正月気分が抜けたある日、高校時代の友人の大輔から電話がかかってきた。コンパのお誘いだった。

 善晶はコンパに参加したことが一度もない。そもそも自分には関係ないと思っている。善晶の中でコンパは、学歴や所属企業等の肩書が一定水準の人達がするものだと思っている。だから最初、大輔はそういう部分で決して鈍感じゃないのに、なんで自分を誘うのか少し不審に思った。

話を聞いていると、大輔は遠回しに言うが、どうやら頭数をそろえるためだと分かり腑に落ちた。

善晶は、そういう場に出ることに気が進まないが、付き合いだと割り切って参加することにした。日程は2月最初の金曜日になった。

 

 

 男性3名、女性3名が集まって、アットホームな雰囲気のレストランで、善晶にとって人生初のコンパが始まった。乗り気じゃないから初めのうちは借りてきた猫のようだった。2時間程にこやかにしていれば友人の顔を潰さずに済むと思い、席についた。

参加している男性陣は有名大学を卒業した大企業のサラリーマンで、女性陣は全員一流企業のOL。善晶は自分だけ部外者のように感じていたが、良い意味で刹那的に考え、開き直って会話することにした。

 

 善晶は永ちゃん矢沢永吉)のファンで、半年前にファンクラブ会員優先でチケットを取って、高校時代の親友と一緒に武道館ライブに「参戦」したことや、高校時代の部活のことなど、たわいもない話をした。その場限りだと思って、女性陣のウケも考えずに話した。

 

 3人の女性のうち、物腰が柔らかい2人の女性が好印象だった。ひとつ年上の26歳の瞳と、22歳の知美。この2人は姉妹のように仲が良いらしい。

善晶は瞳の方が気になった。

コンパが終わって店を出る時、瞳に電話番号を聞いた。近いうちに電話すると言ってその日は別れた。

 

 

 数日後、瞳が電話に出られそうな時間を聞いていたので、その頃を見計らって家に電話した。この前はどうもといった感じで話し始め、食事に誘ったところ、瞳は14日の夜がいいと答えた。

たまたまだろうがその日はバレンタインデー。そんな夜に男女が食事していたらカップルと間違えられると思った善晶は、内心「え~」とにやけながら、少し困ったような照れくさいような気持ちになった。25歳にもなって恋愛経験が乏しいため、どうも自意識過剰になりがちだ。

 

 

 1994年2月14日の夜7時、善晶は車で瞳の家に行き、チャイムを鳴らした。すぐに瞳が出てきたが出掛ける感じじゃない。

 

「先週から子猫を飼い始めてんけど、今、私しかいないから出られない。ごめん」と言った。子猫は見なかった。

 

善晶は「分かった」としか言えず、玄関を後にして車に乗り込んだ。そして、「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ。それに、俺と出掛ける気がなかったら、家まで迎えに来させるな」と思った。

軽く扱われたみたいでみじめだった。舐められているのかと思うと無性に腹が立ってきた。

 

 そのまま帰る気になれず、仕事仲間がよく行くというカラオケスナックに寄った。その日はお金を多めに持っていたこともあり、ボトルを降ろして浴びるように飲んだ。

そんな風にしていたら、閉店時間の深夜0時近くになってマスターに声を掛けられ、店を出た。

フラフラ歩いて近くのラーメン屋に入った。普通にラーメンを食べるのが難しいほど酔っていた。その後、車を止めている場所に向かう。

車の中で朝まで寝て酔いを覚ますという選択肢もあるが、善晶は車を走らせることしか頭になかった。完全に自暴自棄になっていた。もともと希死念慮のある善晶にとって、そのまま運転したらどうなるかという恐怖心はなかったし、むしろ望んだ。

 

 高速道路に入って数分後、起こるべくして事故は起きた。この日から半年、入院を余儀なくされた。

 

 

 事故の2日後、大輔はたまたま善晶の家に電話をして事故のことを知り、病院まで行ったが、その時点ではとてもじゃないが話せる状態ではなかった。大輔は善晶の姿にショックを受けた。

 

 高校時代の友人数名に連絡して事故したことを伝え、「お見舞いにはまだ行かん方がいい。話せる状態じゃないし、1か月ぐらい後の方がいいわ」と言った。

 

 

 2か月が過ぎた頃、大輔をはじめ、コンパに参加したもう一人の男友達の村上と、瞳、知美がお見舞いに来た。大輔以外はコンパの時以来の再会となる。事故までの経緯を大輔から聞いていた3人は、最初は神妙な面持ちだったが、善晶が嬉しそうにしているのにつられて楽しく会話した。

 

 その時、知美が目で語り掛けているように善晶には映った。

 

<つづく>

 

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