厚生労働省は、3年おきに国民生活基礎調査というのを行っています。その中で全国民の中で生活に苦しむ人の割合を示す「相対的貧困率」、18歳未満で生活に苦しむ子の割合を示す「子どもの貧困率」を発表しています。
また、OECD(経済協力開発機構)は、相対的貧困率の国際比較をしていますが、日本の相対的貧困率、子どもの貧困率ともに先進国の中で高いことが分かります。
国民生活基礎調査の結果から見ていきますが、その前に日本の子どもの貧困について概要を書きます。
日本の貧困は「見えない貧困」と言われています。
というのも、スマホ、ゲーム機、テレビなどは持っているからです。しかし、連絡手段だったり、学校で友達と共通の話題がないと孤立するから必要だったりで、どれも日本の生活には欠かせないものです。
そのために、貧困の子どもでも他の子どもと見分けることが非常に難しいと言われてます。
「相対的貧困率」は全国民、「子どもの貧困率」は18歳未満(世帯の所得を元に算出)の相対的な貧困率を表したものです。
【相対的貧困率】
相対的貧困率とは、国民を所得順に並べて、真ん中の順位(中位数)の人の半分以下しか所得がない人の比率を意味するものである。
(大雑把に言うと所得が平均の半分以下しかない人の割合)
2000年-15.3%、2003年-14.9%、2006年-15.7%、2009年-16.0%、2012年-16.1%、2015年-15.7%
(参考比較:1985年-12.0%、1988年-13.2%)
注)子どもの貧困率と比べると変動が小さい(高齢者層の収入が変化しないことが要因の一つ)
【子どもの貧困率】
2000年-14.4%、2003年-13.7%、2006年-14.2%、2009年-15.7%、2012年-16.3%、2015年-13.9%
(参考比較:1985年-10.9%、1988年-12.9%)
注)2015年に子どもの貧困率が大きく下がった理由は、人手不足のため低所得層の賃金が増えたことによるもので、社会保障(福祉)の充実が理由ではない。
※2018年の結果は未発表
「貧困率の調査、算出方法に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf
[考察]
●相対的貧困率と子どもの貧困率は比例しているが、子どもの貧困率の方が変動が大きい。
(相対的貧困率は現役世代ではない高齢者層の貧困率が大きく反映されている)
●景気の良かった1980年代後半は数値が低く、景気と貧困率は関連していることが読み取れる。
世帯構造別 相対的貧困率の推移グラフ
日本は豊かなのか?
日本は豊かと言われているが、果たしてそう言い切れるのだろうか?
ある意味、日本は豊かと言える。
戦後の焼け野原の日本は少ない食べ物を分け合うような状況で、みんなが貧しかった。つまり、絶対的貧困だった。一般的にイメージされる貧困である。
その後、1960年代に高度経済成長を遂げ、経済大国になった日本は豊かになり、生活水準が上がった。そういう社会で世間と比べて貧しいのが相対的貧困。
国全体の生活水準が低い開発途上国にはない形の貧困で、周囲との格差を感じるだけに精神的苦痛が大きい。子どもにとって自尊感情の低下につながり、時として他人に理解されにくい精神症状が現れ、引きこもり等にもつながると考えられる。
相対的貧困率の高さは格差を意味し、諸外国と比べて日本の格差がどの程度かが分かる。
【OECD加盟34か国中の日本の各項目の数値と順位】
相対的貧困率-16.0%・ワースト6位
子どもの貧困率-15.7%・ワースト10位
子どもがいる世帯の相対的貧困率-14.6%・ワースト10位
大人が1人の世帯(ひとり親家庭等)の相対的貧困率-50.8%・ワースト1位
大人が2人以上の世帯の相対的貧困率-12.7%・ワースト11位
OECD(経済協力開発機構)による2010年の調査結果について、内閣府から以下の説明がある。
「OECDによると、我が国の子どもがいる世帯の相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く、OECD平均を上回っている。子どもがいる現役世帯のうち、大人が1人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中、最も高い」
注)「子どもの相対的貧困率」、「子どもの貧困率」、「相対的貧困率」はそれぞれ別の項目
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26honpen/b1_03_03.html
[考察]
●日本の相対的貧困率は2000年代中頃からOECD平均を上回っている。(『平成24年版・厚生労働白書』より)
●子ども(18歳未満)がいる世帯の貧困率が高いことは、少子化の大きな要因のだと考えられる。特に、ひとり親家庭は先進国で最も貧しい(格差が大きい)。ひとり親家庭の社会保障(福祉)と雇用体制が不十分なのが原因であろう。
相対的貧困率が少子化の要因だとすると、超高齢社会の日本において、「(財政的に)現役世代が高齢者の面倒をみる」ことがますます困難になることを意味している。今後、社会保障費を大幅にあげない限り、高齢者自身の負担が増えることにつながる。しかし、現実的に考えて、社会保障費を大幅に上げることは難しい。
●平成24年版・厚生労働白書によると、日本は、公的社会支出(社会保障)の規模は、OECD 平均を若干下回る程度であるものの、相対的貧困率はOECD平均を大きく上回っている(上記のように2000年代中頃からOECD平均を上回っている)。
このことから、国際基準を考えると社会保障費を上げるべきだろう。そのための税率アップは避けられないことで、我々国民は一方的な不満を言わず理解しなければならないと言える。
●諸外国に目を向けると、福祉先進国(税高負担・高福祉)である北欧各国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク)の子どもの貧困率が低いことがうかがえる。
●先進国で一二を争う大国のアメリカがいずれの項目も上位にあるが、北欧と制度的に逆である新自由主義経済の国で格差が激しく、社会保障(福祉)が不十分なことが挙げられる。
※新自由主義経済の経緯について池上彰氏が解説 「池上彰のやさしい経済学」
相対的貧困率の国際比較グラフ
(OECD・2010年)
まとめ
今回紹介したデータは相対的な貧困を表すもので、絶対的貧困ではない。
絶対的貧困―人間として最低限の生存を維持することが困難な状態
相対的貧困―その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態
絶対的貧困は明日の食糧にも困るような命に直結するもので、それに比べると相対的貧困はそこまで貧しくないからマシだと捉える人もいるだろうが、住む国や地域の水準と自分の生活レベルの差が精神的苦痛を大きく左右する。みんながそうではないため、恥ずかしさや引け目を感じる。
さらに、実利的な部分でいえば進学が不利になる。大学進学率が10%の国と80%の国とでは大きく異なる。進学率が高い国であればある程、子どもの貧困は人生に影を落とす。
教育(学歴)で親の貧困から抜け出したくてもそれが難しく、人生を諦める気持ちに陥りやすい。
日本はある意味豊かだが、豊かではない。格差の大きい国が豊かとは言い難い。「日本は豊かだ」と声高に言うのを聞くと綺麗事にさえ感じる。そういう国だから貧困家庭の子どもの精神的苦痛が大きい。
子どもは特に、どこかよその国で飢えている人がいることより、世間と比べて自分が貧しいことの方が重いと感じる。終戦後のようにみんなが貧しい状況は連帯意識があるのが救いだが、相対的に見て少数が大きく貧しいという状況は大変辛いものである。