まほろばで君と

児童虐待防止法施行後の虐待事件と今年の法改正

 2000年11月に児童虐待防止法が施行されましたが、それ以降に起こった虐待事件のうち、4件に絞って概要説明します。最後の目黒女児虐待事件はつい先日(2019年10月29日)判決が確定したのでご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

 

◆2000年12月 愛知県武豊町・3歳児餓死事件

246: 愛知県幼児虐待ダンボール監禁餓死事件 (173)

部屋から異臭がするまで、子どもの死に気づかない 閉ざされた家庭を社会はどう支援するか|ウートピ
 愛知県武豊町のアパートで、谷川依織ちゃん(3歳)が食事を適切に与えられずに段ボールの中に入れられたまま餓死した事件。父親の谷川千秋容疑者(当時21歳)と母親の万里子容疑者(当時21歳)が保護責任者遺棄致死罪の容疑で逮捕された。

発見時の依織ちゃんの身長は89cmで平均的だったが体重は5kgで標準の4割にも満たず、遺体は段ボールの中で両足を折り曲げたまま硬直した状態だった。

「段ボールに入れて子どもを餓死させる」というインパクトの強さと、同年11月に児童虐待防止法が施行された直後の死亡事例であることから、多くの社会的関心を集めた。

 

●04年4月:地裁の判決では殺人罪が適用され、両親とも懲役7年の刑が言い渡されたが、高裁および最高裁に控訴・上告。いずれも棄却、刑が確定した。

 

 

◆2003年9月 山形県村山市・5歳児虐待事件

【山形地裁】5歳児虐待殺人の男、「未必の故意」懲役13年判決

 腎臓病を患っていた加藤翔君(5歳)を虐待によって死亡させ遺棄したとして、継父の板垣直樹被告(内縁・当時29歳)と母親の加藤有美被告(当時25歳)が逮捕された。

板垣被告と加藤有美被告は同居した直後から約1か月間、翔君に対して殴る蹴る、食事を与えないなどの虐待を加え、外傷性ショックで死亡させた。さらに遺体を山中に埋めたとして、殺人と死体遺棄の罪に問われた。

 

●04年10月:山形地裁の判決では、板垣被告の暴行で翔君が骨折などの重傷を負ったと指摘。争点となっていた殺意の有無については未必の故意を認定した。
金子武志裁判長は「(板垣被告)自身が当時、執行猶予期間中だったことから翔君の警察ごっこ(の遊び)にいら立ったという身勝手なもので、酌量の余地は全くない」とした。加藤有美被告に対して懲役11年、板垣直樹被告に対しては懲役13年の刑が言い渡された。

児童虐待事件で10年を超える刑が言い渡されたのは、本件が初めてだった。

 

 

◆ 2013年3月 東京都足立区・ウサギ用ケージ監禁虐待事件

ウサギ用の檻に子供を監禁..足立区3歳児虐待死の全貌 - NAVER まとめ

 東京都足立区入谷で、皆川玲空斗(りくと)君(当時3歳)をうさぎ用のかごで監禁し、口にタオルをまくなどして窒息死させ遺体を捨てたとして、父親の皆川忍容疑者(当時31)と妻の朋美容疑者(当時28)が監禁致死と死体遺棄容疑で逮捕された事件。遺体未発見、マネキン使って生きているように装っていた。

当時の2人には、次男の死亡後すぐに生まれた子も含めて7人の子どもがいた。
父親には派遣会社の運送の仕事で月15万円ほどの稼ぎしかなかった。しかし、7年間で7人もの子どもをもうけた。
みんなで頻繁に外食に出かけるなど、円満な家庭として振る舞っている。家賃や駐車場料金を滞納していたが、周囲には困窮ぶりを見せていなかった。
忍は契約の仕事を転々とするが、当然生活が成り立つわけもなく、粉ミルクを万引きして転売したり、親族から借金を重ねたりした末、生活保護に頼ることになる。子供が多い分、すべての手当を含めて月に30万以上受け取っていたと思われる。


 次男は知的な発達の遅れがあり、言葉をたくさんしゃべれない、他の兄弟のおやつを勝手に食べる、お釜のご飯も勝手に食べる、小麦粉や油を出して床に撒く等、「問題行動」があったため、夫婦はラビットケージに次男を閉じ込めて行動を制限。
おりの扉付近には重しが置かれ、自力では出られないようにされ、死亡の1カ月前の13年2月ごろからは、排泄物を少なくする理由で、2~3日に1回しか食事が与えられなかった。事件直前にはオムツ替え、お風呂、食事以外はほぼケージの中という状態だった。

 

●16年3月11日:東京地裁・稗田雅洋裁判長は「被害者に知的な発達の遅れがあり、問題行動を繰り返していたとしても、行政機関に相談するなどの手段を尽くすべきだった。被害者に真に愛情を持って接していたとは評価できない。監禁は危険かつ悪質で、男児は劣悪な環境に置かれ命を絶たれた」と述べ、皆川忍被告に懲役9年(求刑懲役12年)、朋美被告に懲役4年(求刑懲役7年)を言い渡した。

 

 

◆2018年3月 東京都目黒区・5歳女児虐待事件

www.huffingtonpost.jp

目黒女児虐待事件 - Wikipedia

 度重なる虐待を受けていた船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5歳)が死亡し、両親が逮捕された事件。

結愛ちゃんは母親の優里(ゆり)被告(当時27歳)の連れ子で、香川県から目黒区に転居した18年1月23日ごろから、父親の雄大被告(当時34歳)が食事制限をし、1カ月余りで体重の約25%が失われ、異常な痩せ方をした。

2月24~26日ごろ、雄大被告は結愛ちゃんを風呂場で手加減なく複数回殴った。さらに優里被告と共謀して虐待発覚を恐れる保身から医療措置を受けさせず、3月2日、敗血症を発症させるなどして死亡させた。両被告は事件後に離婚した。

 

●2019年9月17日:東京地裁での優里被告の裁判員裁判の判決で、雄大被告による心理的DV(ドメスティックバイオレンスを認める一方、夫の結愛ちゃんへの暴行を容認したと認定、船戸優里被告に懲役8年(求刑懲役11年)の判決を言い渡したが、控訴している。

●同年10月15日:別の裁判員裁判の判決公判で、東京地裁・守下実裁判長は「食事制限は明らかに不相当で苛烈。虐待の発覚を恐れて医療措置を受けさせなかった点も甚だ悪質。しつけの観点からかけ離れ、自らの感情に任せた理不尽なものだった。苛烈な虐待を主導し、身勝手極まりない」として、船戸雄大被告に懲役13年(求刑懲役18年)を言い渡した。

殺人罪並みの量刑を求めた検察側の主張は退けつつ、児童虐待事件で「最も重い部類の事件」と位置づけた。

●同年10月29日:雄大被告について、控訴の期限となっていたこの日までに被告側、検察がいずれも控訴せず、判決が確定。

 

ここからは、この事件に大きく関係したDVについて、私の個人的な思いを書きます。 

bunshun.jp

 この事件は夫から妻へのDVが発端となっている。その意味で優里被告は「被害者」である。優里被告は法廷で「100%自分の責任」と繰り返したが、雄大被告からのDVにより、夫の娘への暴力を容認せざるを得ない精神状態にあったと考えられる。

逮捕後、優里被告に何度も面会を重ねた精神科医臨床心理士の白川美也子医師は、PTSD心的外傷後ストレス障害)」解離性障害の2つの疾患と診断した。

しかし、優里被告は「私は娘を守ることができませんでした。私は無知で世間知らずで、母親としての知識も覚悟も足りなかった。そんな私が病名だけを切り取って報じられ、DV被害者として擁護されたいとは思わない」と語った。

 

 家庭という「密室」での夫婦間のDVは、第三者に助けを求めない限り、逃げ場がない。DVによってどんどん追い込まれていく。「被害者」であり加害者の優里被告の、事件後の離婚や自分自身を責める言動から、男女間のDVが抱える闇が見えてくる。そんな夫と離婚しないのが悪いという声もあるだろうが、おそらく恐怖で思考が滞り、気力を失い、それが出来なかったのではないだろうか。皮肉だが、今回の事件がなければ、婚姻関係もDVも続いていただろう。 

雄大被告が懲役13年、優里被告が控訴中ではあるが懲役8年。心情的には両者の量刑にもっと開きがあって然るべきだと思う。私は優里被告を責める気持ちにはなれない。

 

結愛ちゃんが両親に宛ててノートに書いた文章

ママとパパにいわれなくってもしっかりとじぶんからもっともっときょうよりかあしたはできるようにするから

もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします

ほんとうにおなじことはしません ゆるして

きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおす

これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたいだから やめるから

もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします

あしたのあさは きょうみたいにやるんじゃなくて

もうあしたはぜったいやるんだぞとおもって いっしょうけんめいやって

パパとママにみせるぞというきもちでやるぞ

 

f:id:endertalker:20191105160537j:plain

目黒女児虐待死事件の経緯

 

f:id:endertalker:20191106002420j:plain

船戸結愛ちゃん(5歳)

 


【衝撃】『5歳少女虐待事件』目黒虐待●は育児放棄では済まされない!子供が反省文なんてありえない!

 

<事件の概要は以上>

 

 量刑が妥当と思うか?軽いと思うか?重いと思うか?

こういった児童虐待事件に関する報道資料はネットで探すといくらでも出てきます。

児童虐待防止法は2000年5月14日成立、11月20日に施行されましたが、法律ができるのが遅い。しかも、施行後にこれらの事件が起きているということは、十分に機能していなかったとも言えます。

特に最後の目黒5歳女児虐待死事件は、これまで児童相談所に2度、一時保護されていて「ブラックリスト」入りしていましたが、児相が適切な対応をしていれば未然に防げたんじゃないかと思います。この事件などを受けて2019年6月に児童虐待防止法が改正されました。2020年4月施行予定です。

 

 日本の福祉は決して進んでいるとは言えず、児童関連だけでなく、高齢者関連、障害者関連も法整備は最近のことで、高齢者虐待防止法は2005年11月成立、2006年4月施行、障害者虐待防止法は2011年6月成立、2012年10月1日施行と、「つい最近」のことです。それまで虐待を防止する法的根拠がなかったのは異常なことだと思います。

 

f:id:endertalker:20191123194916j:plain

2019年児童虐待防止法改正のポイント

 改正ポイントを見ると、目黒女児虐待事件を受けたものが多い。引っ越した場合の児相間での情報共有はまさにそうです。一番大きなポイントは、親がしつけで体罰を加えることを禁じたことでしょう。 しつけであろうと何であろうと体罰は許されないということで、親の言い逃れという「抜け道」への法的措置だと思われます。

 

endertalker.hatenablog.com

 

f:id:endertalker:20191116052320g:plain

11月は児童虐待防止推進月間