まほろばで君と

私小説

微かな望みで出した手紙

遠い昔好きだった女性に手紙を出した。 ネット検索をしたら、松島たかえという名前が出て来た。その場所は彼女の実家の近くで、今もそこに住んでいるかもしれない。出したのは33年振りだ。 33年前、バイト先が同じで何度かデートしていたが、バイトの同僚の…

私小説『昨日のような遠い記憶・唯一のコンパ編』第5(最終)話「年賀状のち再手術」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1994~1995年の話・主人公は25歳] 3か月間、連絡も兼ねて文通しているが、知美からきた手紙にこう書かれてあった。 「実は会社の上司と不倫しています。でも、別れようと思ってます」 知美のこれまでの言動から…

私小説『昨日のような遠い記憶・唯一のコンパ編』第4話「束の間の楽しい記憶」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1994年の話・主人公は25歳] 10月のある日、知美から何度目かの手紙が届いた。 1994年は携帯電話の普及率が3~4%でメールもなかったため、連絡する方法は自宅に電話をかけるか手紙しかなかった。善晶も知美も…

私小説『昨日のような遠い記憶・唯一のコンパ編』第3話「ただのいい人」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1994年の話・主人公は25歳] 9月最初の土曜の午後、善晶と知美はATCに向かった。 車内で冷房をつけていても直射日光が暑い。ZARDの最新アルバムを流して、気分だけでも爽やかにする。知美との初デートというのも…

私小説『昨日のような遠い記憶・唯一のコンパ編』第2話「退院祝い」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1994年の話・主人公は25歳] 一年で最も寒い2月14日の深夜に救急搬送され、長い間入院していた善晶が退院した。それも、院長に早く退院したいと申し出てやっと退院できた。季節が過ぎてすっかり暑くなっている。 …

私小説『昨日のような遠い記憶・唯一のコンパ編』第1話「事故の夜」

小説っぽいものを書いた2作目です。昨年の夏に書いて、細かい修正を繰り返しています。全5話で実話の部分が多く、そこの会話は実際にしたそのままです。 これを書いたのは、自分を俯瞰で見て心の整理をするのと、後年ハッキリ気づいた気持ちを吐き出したい…

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第6(最終)話「大切なもの」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1992年12月、93年3月の話 主人公は23~24歳] 12月上旬、街は赤と緑のクリスマスカラーの装飾が施されて、『We Wish You a Merry Christmas』が流れていた。 善晶と優子はオムライス専門店で夕食を取ることにした…

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第5話「花火大会」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1992年8月の話 主人公は23歳] 善晶と優子が付き合い始めてから2か月が過ぎた。テレビでは連日、バルセロナオリンピックが放送されている。水泳平泳ぎで無名だった中学2年の岩崎恭子が金メダルを取った時のイン…

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第4話「デート!」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1992年5月の話 主人公は23歳] みんなで水族館に行ってから6日後の午後2時、大阪で有名な待ち合わせスポット、泉の広場に善晶と優子がいた。 映画館はここからすぐの所にある梅田ピカデリーで、大阪の一番ど真…

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第3話「帰り道」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1992年5月の話 主人公は23歳] 水族館を堪能した5人は、当時流行っていたティラミスが食べられる店で食事することにした。 水族館で優子と2人で話すことが多かった善晶は、スタンドプレイ気味だったと思い、改…

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第2話「失っていた感覚」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com [1992年5月の話 主人公は23歳] 6年ぶりに再会した善晶と優子。 善晶はラッコショーの間、優子を横目に奇妙な感じがしていた。高校時代と違って、女性と積極的に話せなくなった自分に違和感を覚えた。 「俺ってほ…

私小説『昨日のような遠い記憶・同級生編』第1話「再会」

この話は昨年6月に書いた初めての小説的なものです。大げさに言うと処女作ということになります。あまりにもお粗末で、私自身、読むに堪えないですが、記録として残します。 [1992年5月の話 主人公は23歳] 1992年春、高校の同級生3人が集まった。 浩は今…

私小説『月の彼方へ』第4(最終)話「二度目の再会」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com 2020年1月17日、違う世界の1994年12月10日に行き、あれから1年が経とうとしている。こちらでは1年だが、向こうでは4年経っていて、もう何回か分からないぐらい会っている。前回会った時は1999年9月になっていて…

私小説『月の彼方へ』第3話「積年の想い」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com あの日から10日が過ぎた。 2020年のこの時代に公衆電話から掛かってくることは珍しいが、1994年当時、携帯電話を持っている人は稀だったため、外から電話を掛ける時は公衆電話を使うのが当たり前だった。あの日、知…

私小説『月の彼方へ』第2話「時空はひとつ」

<前回の話> endertalker.hatenablog.com タイムスリップしたとしか思えないこの状況と、若返った自分に戸惑いながら、1994年12月公開の『スピード』を観終わった。テレビでも見たので、これで4回目になる。しかし、知美にとっては公開直後なので初めてだ…

私小説『月の彼方へ』第1話「過去世と過去」

人は誰でも「あの時ああしていれば」と思うことがある。後になって、それで人生が変わっていたかもしれないと気づく。今の人生経験や知識、知恵があれば違う判断や行動をしていたのにと思う。 これは人の数と同じだけあるそんな話。 2020年、東京オリンピッ…